「小規模企業共済」という制度をご存知でしょうか?

「小規模企業共済」とは、中小企業の経営者や役員、個人事業主が退職・廃業などした際に、掛け金に応じてそれまで積み立てた共済金を「退職金」として受け取ることができる共済制度です。

また、「節税対策」にもなるこの制度は、一般の法人保険よりも、毎月の掛け金や受け取り時のお金に対して、掛かる税金額を大きく減らすことができます。

今回の記事では、小規模企業共済の仕組みや掛け金額などの基礎知識や節税メリット・デメリット、おすすめの退職金の積立方法などを中心にご紹介いたします。

節税をしながら退職金を積み立てていきたい、とお考えの中小企業の経営者や役員、個人事業主の方は、ぜひこの記事を参考にしていただければ幸いです。

大見先生この記事の監修者:大見 光男(オオミ ミツオ)

大見税理士事務所 代表。大田区の会計事務所で主に中小の法人と医業、不動産所得がある方を担当し節税対策や申告書の作成に従事。会計事務所にて働きながら税理士資格を取得し、平成29年10月に大見光男税理士事務所を開業。

「だいたい3分でわかる仮想通貨の税金の話」を出版。Amazonの経理・アカウンティング部門でベストセラーに。

報酬削減

節税しながら退職金の準備できる、小規模企業共済

まず、この章では、小規模企業共済の概要について説明します。

①小規模企業共済とは?

小規模企業共済

小規模企業共済は、国が全額出資している独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)の運営する退職金積立制度です。

中小企業の経営者や役員、個人事業主が、退職したり、事業を辞める場合に、それまで積み立ててきたお金を受け取ることができます。

設立して間もない企業や中小企業の経営者や役員、個人事業主の場合など、そもそも会社の制度自体が整っていなかったり、退職金の考え自体がない企業に、非常におすすめの制度と言えます。

②加入条件:法人の経営者・役員・個人事業主

小規模企業共済に加入できるのは、次のいずれかに該当する法人の経営者役員個人事業主です。

ポイントを解説しますと

従業員は20人以下という制限があります。今後従業員数を増やす場合には、規模の小さい今のうちに加入しておきましょう

・事業的規模の不動産賃貸業を持つサラリーマンであっても、小規模企業共済の加入資格に当てはまらないため、個人で加入することはできません。 しかし、法人が不動産を持っていたり、個人の不動産の管理業務を法人が行っている場合は、加入することができます。

・個人事業主の「共同経営者」が加入できます。(平成23年に法律改正により)そのため配偶者であっても実質経営に参加している場合は加入することができます。

加入条件の詳細は下記になります。

  1. 建設業、製造業、運輸業、サービス業(宿泊業・娯楽業に限る)、不動産業、農業を営む場合は、常時使用する従業員の数が20人以下の個人事業主または会社等の役員
  2. 商業(卸売業・小売業)、サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)を営む場合は、常時使用する従業員の数が5人以下の個人事業主または会社等の役員
  3. 事業に従事する組合員の数が20人以下の企業組合の役員、常時使用する従業員の数が20人以下の協同組合の役員
  4. 常時使用する従業員の数が20人以下であって、農業の経営を主として行っている農業組合法人の役員
  5. 常時使用する従業員の数が5人以下の弁護士法人、税理士法人等の士業法人の社員
  6. 上記「1」と「2」に該当する個人事業主が営む事業の経営に携わる共同経営者(個人事業主1人につき2人まで)

引用:独立行政法人 中小企業基盤整備機構|小規模企業共済

③月々1,000円から掛金を自由に設定できる

掛金を自由に設定できる

毎月1,000円〜7万円の間で、500円単位から掛金を増額・減額することができ、自由に設定できます。

掛金の納付方法は、個人の預金口座からの振替により支払い、月払い・半年払い・年払いを選択することができます。

また、掛金は前納することができ、前納をすると一定割合の前納減額金を受け取れるお得な仕組みもあります。

④掛金は全額所得控除に!

小規模共済 控除小規模企業共済の毎月の掛金は所得税法上、全額を小規模企業共済等掛金控除として所得控除できます

また、1年以内の前納掛金も同様に控除できるため、最大加入時には2年分の所得控除が利用できます。詳しくは次章で解説します。

⑤事業資金貸付制度:低金利で借入が可能

小規模企業共済では、掛金の納付期間に応じた貸付限度額の範囲内で事業資金等を借り入れることができます。

資金繰りのために、事業資金等が必要な場合には強い味方となります。

なお、貸付制度を利用中も、毎月の支払さえしっかりしていれば、返戻金などに影響はありません。

小規模共済 グラフ

小規模企業共済の4つの節税効果

この章では、小規模企業共済の節税効果について、詳しく説明していきます。

個人の所得税・住民税を節税できる

小規模企業共済では、掛金の全額が所得控除できます。

掛金を支払うのは会社ではなく、経営者または役員個人、個人事業主ですので、個人にかかってくる所得税・住民税に対して、節税効果があります。具体的な節税額の試算は以下の通りです。

所得の一覧表

不動産投資、税率の一覧表

※尚、詳しいシミュレーションは中小機構のHPにて、行えます。合わせてご覧ください。

小規模企業共済の掛金は、1年分前納が認められています。利益が出そうな年などには決算直前でも、翌年度分をまとめて納付をすれば、今期の控除額を増やすことができます

通常保険との比較
生命保険料控除額は最大でも12万円です。毎月の掛金月額が1万円以上であれば、小規模企業共済の方が大きな所得控除を活用することができます。

掛金相当額を「役員報酬」として支払うことで、実質会社の損金として算入することができる

会社の経営者や役員が小規模企業共済に加入する場合、掛金の支払いは会社ではなく、経営者や役員個人で支払います。

会社としては、直接掛金を費用計上することはできません。

しかし、掛金の相当額を会社から経営者や役員に役員報酬として支払うことで、実質全額を損金として算入することができ、法人税を節税することができます。(社会保険料負担等は増します。)

このように、個人・法人の両方で節税効果を得ることができます。

受取時は退職所得控除として多額の控除が適用される

掛金の受け取りには、2つのパターンがあります。

①掛金を一括で受け取る場合

事業の廃業や死亡、定年退職の歳である65歳に達した際などに、一括で受け取る場合は「退職一時金扱い」となり、勤続21年で800万円以上の多額の退職所得控除が適用されます

一括で受け取る場合:退職所得扱い=退職所得控除が適用可能

税率1

②掛金を分割で受け取る場合

雑所得の扱いになり、毎年最大150万円程度の公的年金等控除が適用されます

分割で受け取る場合:雑所得扱い=公的年金等控除が適用可能
税率2

本人死亡時も死亡退職金として、非課税枠で受け取れる

万一、契約者が死亡した場合、死亡に伴う解約金は相続税法上では、死亡退職金として扱われます。

死亡退職金の場合、相続税の非課税枠(500万円×法定相続人の数)があり、生命保険金とは別に非課税枠を作ることができます。

生命保険金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)と同様に、相続税の課税財産には含まれませんので、効果的に相続税対策を行うことができます。

死亡退職金非課税枠:500万円×法定相続人の数

節税効果を得られないこともある

小規模企業共済は、節税効果の高い商品です。しかし、納付期間の長い商品でもあり、納付期間中に契約の変更を行った場合には、期待していた節税効果が得られないこともあるため注意が必要です。

途中で解約した場合

途中解約してもそれまでの掛金は受け取れますが、退職所得控除に比べて節税効果は小さくなります。

節税という面から考えると、途中での解約はおすすめできません。

また、加入後20年以内に任意解約をした場合には、受け取るお金が「共済金」ではなく「解約手当金」となり、受け取る金額は払い込んだ掛金より少なくなります。

共済金とは、退職や廃業、死亡時などに受け取るお金のことで、払い込んだ掛金に運用収入を加えたものです。

また、解約手当金は、納付期間が1年未満ならば掛け捨てとなり、お金は戻ってきません。さらに、7年未満の場合は、掛金×80となります。

支払った掛金以上の水準で受け取るには、20年以上納付する必要があります。

掛金を受け取るための条件としては、

・廃業、死亡する
・定年退職の歳である65歳に達する
・法人成り・任意解約する

の3つがあります。それぞれの場合の取り扱いは以下の通りです。

受取条件

一時所得金

掛金を減額した場合

もうひとつ注意しなければならないのが、掛金を途中で減額した場合です。

掛金を途中で減額すると、減額した部分について、払込期間が240ヵ月に満たない場合、掛金の一部しか返ってこない場合があります。

減額された部分が運用されないうえ、減額後の期間は納付期間としてカウントされませんので、払い込んだ元金を下回ることになります。
受取金の考え方

少し例を挙げて、さらに詳しく説明したいと思います。以下の図をご覧ください。

AさんとBさんは共に、毎月7万円の共済金を積み立てていました。ところが、ある時をきっかけに、Bさんが、共済金の減額を申請を行いました。

2人が満期を迎えた場合の受取金額はどのようになるのでしょうか?

途中解約の場合

毎年の所得控除については、支払った部分について控除できますが、途中で減額し、そのまま払い込んでいると当初見込んでいるほどの節税効果が受けられなくなります。

ただ、掛金を減額した場合でも、その後再度増額すれば増額した部分については加入期間を通算することができます。通算して20年を超えれば掛金は全額返ってきます。

退職金を準備するならどの手法がお得か比較

小規模企業共済の概要や節税効果について解説してきましたが、退職金の準備はどのような方法がお得なのでしょうか。生命保険や社内積立と比較しながら考えていきます。

表一覧

 

個人事業主の場合、まずは小規模企業共済をおすすめします。所得控除額が大きく節税効果が期待できます。

少額からでも開始しておきましょう。生命保険の場合、控除額は限定され、医療保険などに加入した場合の控除も使えなくなります。退職金の準備としての加入はあまり魅力がありません。

法人の場合も、まずは小規模企業共済をおすすめします従業員20名以下の時しか加入できませんので、最低額の1,000円からでも加入しておいて損はないでしょう。

個人の所得金額と法人の所得金額をみながら、小規模企業共済と生命保険(契約者:法人)を追加で組み合わせて退職金を準備すると節税効果も大きくなります。

社内積立は変更や解約がフレキシブルに行える点は便利ですが、控除対象にもならず、むしろ課税対象になり税制メリットや運用益が期待できないので、他の方法に比べると大きく見劣りします。

トータルで考えても、小規模企業共済は得な制度

トータルで考えると、小規模企業共済は得な制度です。

退職金準備のために積み立てると考えると、少額からでも加入しておいて損はないでしょう。

得なポイントは、やはり節税効果です。掛金について、全額所得控除ができる点は大きなメリットと言えるでしょう。

 

高所得者の場合、個人の所得や役員報酬が高くなるにつれ、税率も高くなりますので、小規模企業共済の所得控除の節税効果が上がります

会社の経営者や役員の場合は、掛金分を給与に上乗せしておけば、会社でも全額損金計上ができますこの効果が20年使えると考えると大きいです。

昨今の低金利の環境では高い運用利回りを期待するのが非常に難しくなっていますので、上手に節税して手元の資金を残す取り組みは効果的です。

 

注意すべき点は、途中での解約と掛金の引き下げですが、途中で解約すると返戻率が低くなるので、基本的には満期まで継続することをおすすめします。資金が必要な際は、貸付制度を活用する方法もあります。

貸付け利息は0.9%~1.5%ですので共済給付金の予定利率1%と比べても負担としては大きくありません。

 

また、掛金の引き下げをする場合も気を付けましょう。掛金を徐々に上げていく分には問題ありませんので、まずは最低限の資金で加入しておくといいでしょう。

まとめ|退職金の準備として、まずは少額からの加入がおすすめ

小規模企業共済は、中小企業経営者や役員、個人事業主の退職金積立制度です。

退職金の準備などまだまだ先とお考えの方も多いでしょうが、小規模企業共済の場合は、掛金の全額が所得控除されるなど、積み立てながらも節税が行える点が特長です。

個人事業主や開業して間もない企業経営者にとっては、事業資金等が必要な際の貸付制度があることも安心です。

まずは少額から退職金の準備として加入されることをおすすめします。

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