皆さんは法人税が年々下がってきているのはご承知と思いますが、じつは社会保険料については毎年ジワジワ上昇しているのはご存知でしょうか。

平成元年には16.54%(従業員負担分8.27%)だった社会保険料ですが平成30年現在では29.1%(従業員負担分14.4%)に上昇しています。

社会保険料の増加は、個人にとっては手取り給与の金額が減少することになり、法人にとっても従業員と保険料を折半して負担しているため徐々に負担が大きくなっているということです。

社会保険料の見直しは会社経営者にとっても経営改善のテーマのひとつともいえます。

そんな社会保険料の削減手法は数多くあり、工夫すればすぐに取り組めるものもあります。

一方で少し強引な手法もあるため、それぞれの会社に規模や特性に合った取り組みを進めましょう。

今回は社会保険料とは具体的に何?という基礎から社会保険料を軽減する全手法と注意点までお伝えします。

社会保険とは?

社会保険はすべての国民に加入が義務付けられています。社会保険とは広義では公的医療保険、年金保険、労働保険を合わせたものをいいますが、狭義では健康保険と厚生年金保険を示す場合があります。

法人はもちろん、個人事業でも従業員5人以上を雇っている事業所は社会保険(健康保険・厚生年金保険)に強制加入の対象になります。

社会保険の種類

会社で加入する社会保険としては次の5つです

・健康保険
・厚生年金保険
・労災保険
・雇用保険
・介護保険

標準報酬月額とは

標準報酬月額とは、健康保険料や厚生年金保険料を計算する基礎となる金額のことをいいます。

標準報酬月額は原則年1回、4月~6月の3か月分の給与の平均額から計算されます。給与の額は通勤手当含む総支給額が用いられ、諸控除差引後のいわゆる手取り額とは異なります。

3カ月間の総支給額の合計を3で割り、その金額を「標準報酬月額表」という給与金額ごとに等級分けしたテーブルに当てはめて決定します。

健康保険と厚生年金保険では上限および下限の金額や等級は異なりますが、それ以外の重なる部分では同じ標準報酬月額になります。

健康保険:1~50等級
厚生年金 :1~31等級

※引用元:協会けんぽホームページより

標準報酬月額は毎年1回・4月~6月の3カ月の平均給与額で標準報酬月額が決定します。これを「定時決定」といいます。

定時決定した標準報酬月額と実際の給与とが大幅に乖離してしまうこともあるため、その他の改定方法もあります。

  • 毎年7月1日決定(定時決定)
  • 昇給等、固定的賃金が変更されたとき(随時改定)
  • 入社したとき(資格取得時決定)
  • 産前産後休業が終了したとき(産前産後休業終了時改定)
  • 育児休業が終了したとき(育児休業等終了時改定)

なお賞与については「標準報酬賞与額」があり、賞与金額の1000円未満を切り捨てたものが用いられます。標準報酬賞与額に保険料率を掛けた金額を徴収します。

社会保険料を削減する全手法

社会保険料を具体的に削減する手法を説明します。会社の規模や事業特性により向いているものとそうでないものがありますが参考にしてください。

社会保険料を削減する主な考え方は2つです。

・標準報酬月額を下げる
・社会保険料の対象者を減らす

このどちらかの取り組みになります。

期中でも実行でき、効果がでるもの

賞与の一部を退職金として支給 賞与の一部を退職金として支給することで賞与にかかる社会保険料を削減します。(退職金については退職控除が活用できます)

例えば賞与金額60万円のうち10万円を退職金として支給すると

10万円×(健康保険料9.90+厚生年金18.30%)×2回=28,200円

一人あたり年間28,200円の社会保険料を削減できます。

退職間近の人などであれば協力しやすい取り組みですが、それ以外の人の場合はお金を受け取るタイミングがかなり後になるため、何らかのインセンティブ付与などが必要です。

賞与回数を変更し、月額の給与として計上 そもそも賞与に対する社会保険料は標準月額報酬とは別に計算されます。※標準賞与額(賞与額)✕保険料率)

賞与は年2回の会社が多いですが、これを年4回の支給にすることで社会保険料の計算上「月額の給与として計算」することになり標準月額が上昇するのです。

そして、厚生年金保険料は標準報酬月額が62万円で上限に達するため、報酬が上限62万円を超えた部分は厚生年金保険料を負担しなくてもよくなります。

例えば、月々の給与が62万円以上あり、賞与の金額が90万円×2回だった人が賞与を45万円×4回に変更する場合、賞与月の厚生年金保険料は上限の金額に既に達しているため、厚生年金保険料の支払い額は変わりません。

これまで賞与時に支払っていた113,460円×2=226,920円の社会保険料が削減できます。

パート社員の活用 正社員の労働時間の3/4未満の短時間労働者は社会保険加入の適用外になります。

目安としては週5日→3日勤務または1日8時間→6時間未満勤務への契約変更により適用外となります。

有期雇用で採用 2カ月以内の有期雇用契約で採用する場合は社会保険に加入する必要はありません。

そのため2ヶ月分の社会保険料が削減できます。

ただし正社員への転換がほぼ決まっている場合などでは、社会保険への加入が必要な場合もあります。

退職日を月末前日に設定 当月末に在籍していない場合は社会保険に加入する必要はありません。

そのため退職日を月末前日にすれば会社側で社会保険料を負担する必要はありません。

ただ従業員側は当月の保険料が未納になりますので、十分に説明しておく必要があります。

業務請負契約への変更 正社員として働いている従業員を業務請負契約へ変更します。

雇用契約を結ぶと社会保険料負担や時間外手当、有給休暇などが必要ですが業務請負契約の場合は社会保険加入や時間外手当などの必要はありません。

業務請負契約への変更は業種によって、よく行なわれる場合もありますが、従業員にとっては、仕事内容は引き続き変わらないとしても雇用契約内容や立場が大幅に変わることになりますので、よく説明して納得をしてもらう必要があります。

常勤役員を非常勤役員に変更 常勤役員を非常勤役員に変更し勤務時間を週3日以内にすれば社会保険に加入する必要がなくなります。

役員報酬が期中に減額になる場合は業績悪化や健康上の理由など一定の事由が必要になります。

税務否認される場合もありますので実際に行う場合には注意が必要です。

 

翌年から効果がでるもの

4~6月(3~5月)の残業代を削減 標準報酬算定期間における残業代を圧縮して標準報酬月額を抑え、等級が上がらないようにします。
昇給月の見直し 昇給のタイミングを7月など標準報酬月額決定の後にすることで、標準報酬月額の上昇を1年間遅らせることができます。

昇給月を変更する場合には就業規則の変更が必要になるケースがあります。昇給で固定的賃金が変わり現在の等級と2等級以上差がある場合は「随時改定」の対象となります。

交通費支払い方法の工夫 通勤手当などは1カ月定期代ではなく6カ月定期での金額を支給する方が割安になります。

交通費支給額の削減で標準報酬を抑えることができます。

役員報酬の見直し 少し無理やりなやり方ですが、月々の役員報酬を抑え標準報酬月額を下げます。その分手厚くした役員賞与年1回支給して厚生年金保険料の上限(62万円)を超えた部分の厚生年金保険料の支払いを削減します。

この変更については合理的な説明ができる場合のみ有効です。

借り上げ社宅制度 住宅手当を支払うと標準報酬月額が増加します。

そのため会社で社宅を契約する形式にすることで住宅手当を削減し標準報酬を抑えることができます。

その際は全額会社で負担するのではなく従業員からも一部家賃を負担する必要があります。

家賃負担がない場合は家賃相当額を所得とみなされるケースもあります。

 

社会保険料を削減の注意点

社会保険料を削減する場合には気をつけなければならない点もあります。社会保険料の支払いを抑えるということは、将来従業員(または社長本人)が受けとる厚生年金の金額が少なくなるということです。

厚生年金の受給額の計算式を大まかにいうと

「平均給料(標準報酬月額)×一定乗率×加入期間×スライド率」です。

標準報酬月額が少ないということは従業員が将来の年金の受取額が少なることを意味しますので、標準報酬月額が少ないことがいいかどうかは意見が分かれるところです。

またそれぞれの社会保険料削減の方法でも注意しなければならない点があります。

基本的には各制度を変更する理由を説明する際に「社会保険料を減らすため」ということは言ってはいけません。

手続によっては認められないケースもあります。

上記の役員報酬の変更のように、極端に月々の役員報酬と賞与の金額を変更する場合には、社会保険事務所や税務署から「どのような目的で変更をするのか」と尋ねられる場合があります、その場合には月ごとの売上や支払いの特性や資金繰りの都合など納得感のある説明が求められます。

従業員の賞与や残業代などについても、会社内にある程度協力的に動いてくれるという素地がない場合は、導入しにくい場合があります。

会社が社会保険料を支払わなかったらどうなる?

会社には社会保険料を支払う義務がありますが、社会保険料を支払わなかったらどうなるでしょうか?

会社が支払期限までに社会保険料を支払わなかった場合は約1週間後に督促状が送られてきます。それでも支払わない場合は再度督促状が遅れます。

督促状の次の段階は電話による督促です。さらにステップが進むと財務調査が行われます。

財務調査では担当職員が会社や経営者の自宅を訪れ、財産がないかをヒアリングし調査します。それでも支払われない場合は強制調査となり、財産が見つかれば差し押さえされます。

この間には延滞金が発生します。時間が経つにつれて延滞金の額は大きくなります。

社会保険料の半分は従業員からの預かり金でもあります。運転資金と混同するのは危険ですので資金が不足する場合は、早めに金融機関や社会保険事務所等に相談しましょう。

まとめ|社会保険料の削減は工夫すればすぐに取り組みできるものもある

・社会保険料には「健康保険」「厚生年金保険」「労災保険」「雇用保険」「介護保険」があります。
・「労災保険」は全額事業主負担、他は従業員と事業主が折半します。
・社会保険料は「標準報酬月額」を基準にして決まります。
・社会保険料を削減するには「標準報酬月額を下げる」「対象者数を減らす」の二つの方法があります。

社会保険料の削減は工夫すればすぐに取り組みできるものもありますが、一方で少し強引な手法もあります。それぞれの会社に規模や特性に合った取り組みを進めてみましょう。