経営者として、自社の規模が大きくなればなるほど気にかかるのが、従業員の定着率。

事業の拡大には「ヒト・モノ・カネ・情報」という資源が必要であり、優秀な社員が定着してくれることは、事業の成長における重要な要素の一つであることは言うまでもないでしょう。

その社員の定着率に少なからず関わってくる要素の一つが、退職金です。

退職金制度を準備している企業は、厚生労働省が発表した平成30年就労条件総合調査の「退職給付(一時金・年金)の支給実態」によると、全体の80.5%となっており、5社に4社がその制度を取り入れていることになります。

しかし、業種や会社規模によっては、全体の割合を大きく下回るところもあります。

将来もらえる年金が確かなものではないとも言われる昨今において、退職金があるかどうかは従業員の定着率にも関わるため、準備する意義は十分あると言えます。

この記事では、退職金を用意する2つの方法(保険・現金)に加え、それぞれ特徴やメリットなどについて紹介します。

まだ退職金に関する準備をしていなければ、ぜひ参考にしてください。

1.退職金には、保険で備える場合と現金で備える場合の2種類がある

退職金には、保険で備える方法と現金を積み立てていく方法の2種類があります。いずれも将来のためにお金を確保できる方法ですが、中でも保険を使った退職金の準備は有用です。選択する方法により、その仕組みや性質は異なるため、それぞれどのような違いがあるかを詳しく解説していきます。

退職金を保険で準備する場合

退職金を保険で準備する場合、貯蓄性の高い保険を活用することで退職金の支払いに備えることができます。

加入する保険の種類によるものの、企業側のメリットとして現金を積み立てるよりも節税対策にもなるので、退職金の準備には効果的と言えます。

退職金用の資金として社内に貯蓄する必要がないため、現金で準備する場合と比べ退職金用の資金をその他の支出用として取り崩しをしづらいこともメリットになります。また、保険のほかに、いわゆる「中退共」と呼ばれる中小企業退職金共済や確定拠出年金などの手段もあります。

しかし、中小企業退職金共済・確定拠出年金はいずれも退職金以外の用途に活用できません。保険の場合は用途が限定されていないため、会社の資金や事業への投資など退職金以外の事態にも対応できる、という点で利点があります。

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退職金を現金で準備する場合

退職金を現金で準備する場合、基本的には現金の積み立てとなります。保険と大きく異なるのは保険に比べ税金が高いということでしょう。

会社全体の益金扱いとなるので、積み立てていくだけで毎年税金が課されます。

そのため、効率が悪く、結果としてあまり金額が増えないということも考えられます。

また、退職金は、保険のように一旦社外に出るお金とは異なり、内部で貯めておかなければならないので会社の他の資金との区別が難しくなり、取り崩してしまうリスクがあることを忘れないでください。

一方で、資金繰りは会社側で決められるという利点もあります。経営者として何を重視するかによって現金での退職金の準備・保険での退職金の準備いずれかを選択すると良いでしょう。

会社の状況によって、どの制度を利用すべきかが変わる

会社の状況によっては、退職金を保険で準備するよりも良いケースもあるため、退職金を準備する際は、様々な手段を検討するとよいでしょう。

たとえば、従業員が多い場合には、国がサポートしている制度であり事業主負担の少ない中退共などを活用した方が良いケースもあります。

一方で、将来的な業績が不透明で、従業員があまり多くない場合には、保険の方が向いていると考えられます。

従業員の人数、退職金以外への応用、掛金負担の大小、福利厚生の充実など、あらゆる側面から自社に合った選択をしたいところです。

本稿では、退職金の準備において、現金に比べてメリットが多く、得となるケースも多い保険の活用を中心に詳細をご紹介します。

2.退職金を保険で準備するメリットとデメリット

退職金を現金や中退共などではなく、保険で準備することには、会社にとってメリットが多くあります。

また同時に、保険ならではのデメリットも存在します。

保険を使って退職金を準備するにあたっては、それぞれをよく理解したうえで、活用するようにしましょう。

退職金を保険で準備するメリット

退職金を保険で準備するメリットとしては、大きく4つ挙げられます。

それぞれ詳しく見ていきます。

法人税の節税

退職金を保険で準備すると、節税効果が期待できます。もし、退職金を現金で準備した場合、会社全体の益金として扱われるため、毎年、法人税が課されることになります。

現金として積み立てていくだけで毎年多額の税金が発生することになるため、退職金の準備としては現実的ではありません。

その一方で、保険料は損金に算入されるので、課税対象となる利益を減らすことが可能です。

積み立てていく退職金の目減りを防ぐことができるだけでなく、法人税の節税効果も期待できるので、退職金を保険で準備する魅力は大いにあると言えるでしょう。

福利厚生としても役立つ

退職金を保険で準備することで、従業員に対して安心感を提供できるのもメリットの一つです。

退職後にまとまった金額の給付があるという安心感があれば、定着率にも影響し優秀な社員の離職を防ぐことにも繋がり、ひいては事業拡大が期待できます。

また、一部の保険では福利厚生の側面を備えたものもあります。

退職金の積み立てをする一方で、病気や死亡など従業員に万が一のことがあった場合に、保険金が支払われるものが代表的です。

退職金だけでなく、リスクに備えつつ、福利厚生を充実させることができるのも、保険を活用する利点と言えるでしょう。

退職金の支給については会社側が判断できる

中退共の場合、会社との契約ではなく契約自体が従業員個人に紐付いており、退職金のために利用すると定められているため企業の判断で資金の用途を変更することができません。

一方、保険の場合は契約が会社に紐付いているため、退職金の支給対象としてふさわしくないと企業が判断をした場合は退職金以外の用途に利用が可能です。将来の資金繰りにおけるリスクに備えることができるのは保険の魅力の一つです。

経営者の万が一の事態にも備えられる

退職金を保険で準備した場合、企業の財務リスクにも備えることができます。

中小企業においては、経営者に万が一のことが起こると、経営が立ち行かなくなったり資金繰りが厳しくなったりすることも多く見受けられます。

こうした事態に備えて、保険に加入しておくことは賢い選択の一つと言えるでしょう。

死亡退職金などをカバーできるだけでなく、経営者不在の中で会社を立て直す期間の費用を賄うことが可能になります。

万が一の保障に備えつつ、退職金の準備もできる保険は、中小企業においてとても有用な選択肢だと言えます。

退職金を保険で準備するデメリット

退職金を保険で準備すると節税効果や万が一の保障などメリットも多い一方で、注意したいデメリットもあります。

一度導入した場合、維持しなければならない

退職金を準備するために一度保険に加入してしまうと、そう簡単には止めることができないので注意が必要です。

そもそも貯蓄型の保険は保険料が割高になる傾向があり、長期加入が前提となっています。

途中で解約すると、元本を大きく割り込むリスクもあり、中長期的に加入できる環境にあるかどうかよく見極める必要があるので注意しましょう。

将来的な業績と照らし合わせて、今後も保険料を払い続けることができるかどうか考慮すると良いと言えるでしょう。

退職金を保険で準備するためには、安定したキャッシュフローが求められます。

早期解約した場合、節税対策としては無意味になる

退職金のために保険を積み立てていても、途中で早期解約してしまうと、節税対策としては無意味になってしまいます。

というのも、早期解約した場合の解約返戻金は益金とみなされるため、保険料の支払い時に損金として算入した節税効果が意味をなさなくなるためです。

それどころか、早期解約することで解約返戻金が、払込保険料を割り込むこともあり、損になることもあるので注意が必要です。

契約初期段階で、加入した従業員が早期退職してしまうと損をすることも多いので、在籍期間をよく吟味して加入する必要があると言えるでしょう。

3.退職金の準備で利用できる保険の種類

退職金を準備するために活用できる保険は、大きく分けて4種類あります。

それぞれに特徴を持ち、メリットとデメリットが存在します。

自社に合わせてうまく活用するために、それぞれの特徴をよく押さえておく必要があります。

それぞれの保険の特徴について紹介しましょう。

 

長期平準定期保険

逓増定期保険

養老保険

がん保険

保険料

貯蓄性

節税効果

 

長期平準定期保険

長期平準定期保険とは、保険期間満了時の年齢が70を超えるなど長期に渡る定期保険のことで、保険料は一定であるという特徴を持ちます。

保障の対象者が死亡したり高度障害になったりした場合に、保険金を受け取ることができます。

定期保険でありながら、掛け捨てではなく、途中で解約した場合に解約返戻金を受け取ることができる貯蓄性のある保険とも言えるでしょう。

長期平準定期保険のメリット

長期平準定期保険のメリットとしては、以下の2つが挙げられます。

・解約返戻金が比較的高く貯蓄性がある

長期平準定期保険の魅力は、加入から20~30年程度をピークに解約返戻金が高くなる傾向にある点です。

従業員が退職前に死亡した場合には保険金が支払われ、無事に退職を迎えた場合には、そのタイミングで解約すれば十分な返戻金が戻ってくるので退職金に充てることができます。

退職のタイミングが多少ずれたとしても、もともと保障期間は長期に渡るため融通が利きやすいのです。

・保険料の大半を損金算入することができる

長期平準定期保険の保険料については、保険期間の前半6割期間で保険料の2分の1を損金算入、2分の1を資産計上します。

そして、後半4割期間で保険料の全額を損金算入、かつ前半6割期間の資産計上額を後半4割期間で按分して損金算入することになります。

これは保険期間終了に向けて解約返戻金が少なくなることによる措置ですが、退職のタイミングまで少なくとも2分の1を損金算入できることになるので、節税効果が期待できます。

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長期平準定期保険のリスク

長期平準定期保険の考えうるリスクとしては、以下の2つが挙げられます。

・保険料が一般的な定期保険より高い

長期平準定期保険は、定期保険と名がついているものの、貯蓄性が高いこともあって、一般的な定期保険よりも保険料が高めに設定されています。

キャッシュフローが安定しない会社では、保険料を長い間払い続けられるかどうか、吟味する必要があるでしょう。

・早期に解約すると元本割れする可能性が高い

貯蓄性の高い長期平準定期保険ですが、解約返戻金のピークは20~30年後に設定されていることが多く、それ以前に早期解約すると、払込保険料を割り込むリスクがあります。

あくまで定年まで働いてもらえそうな従業員に対してのみ有効な手段であると認識しておくと良いでしょう。

逓増定期保険の特徴

逓増定期保険は、保険金額が保険期間の経過とともに一定の割合で増えていく定期保険で、保険料は一定です。

長期平準定期保険に似た性質を持っていますが、保険金が逓増定期保険の方が、保険期間が終盤になるにつれて大きくなります。 

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逓増定期保険のメリット

逓増定期保険のメリットとしては、以下の2つが挙げられます。

・短期間で退職金を準備したい場合に有効である

逓増定期保険と長期平準定期保険の違いとして挙げられるのが、解約返戻金のピークのタイミングです。

逓増定期保険におけるピークは、5~10年と比較的短く、定年まであと残り僅かな従業員に対する退職金準備にも使えます。

ただし、期間が短いほど保険料は高くなるので注意が必要です。

・保険料の大半を損金算入することができる

長期平準定期保険と同じく、保険料として支払った分は一部を損金算入にできます。

被保険者の年齢と保険期間の長さにより異なるものの、前半6割期間で一部を損金算入、後半4割期間で全額を損金算入し、前半6割期間の資産計上額を後半4割期間で按分して損金算入することになります。

節税効果が期待できるでしょう。

逓増定期保険のリスク

逓増定期保険の考えうるリスクとしては、以下の2つが挙げられます。

・早期解約はデメリットが大きい

こちらも長期平準定期保険と同じく、早期解約をすると解約返戻金が払込保険料を下回ることになります。

また、解約返戻金のピークを過ぎてから解約しても戻ってこないので、解約のタイミングをうまく見極める必要があるでしょう。

定年まであと5~10年といった従業員に対して活用するのが理想的です。

・タイプごとの性質を理解しておく必要がある

逓増定期保険にはいくつかのタイプがあり、解約返戻金のピークとなるタイミングもそれぞれで異なります。

解約返戻金が最も高いタイミングで解約するのが理想ですが、会社が必要とする時に重なるとは限りません。

それぞれのタイプをよく理解したうえで、他の保険に比べて本当にあっているのかどうかを見極める必要があります。

養老保険の特徴

養老保険とは、生死混合保険ともいわれ、一定の保険期間内に被保険者が死亡や高度障害となった場合には保険金が、満期まで生存した場合には満期保険金が支払われる仕組みの保険です。

養老保険のメリット

養老保険のメリットとしては、以下の2つが挙げられます。

・福利厚生プランが有効活用できる

退職金を準備するためによく使われる養老保険が「福利厚生プラン(ハーフタックスプラン)」というものです。

これは、在職中に死亡してしまうリスクに備えつつ、満期を迎えたら退職金に充てることができるもので、2分の1を損金算入することができるので節税効果もあります。

福利厚生を充実させることができるので、退職金の準備によく利用されるプランです。

・一定額の保険金を確実に得られる

養老保険では、死亡した場合であっても満期を迎えた場合であっても、もらえる保険金は予め一定です。

そのため、将来に備えた計画が立てやすく、退職金準備のための資金も確保しやすいという利点があります。

養老保険のリスク

養老保険の考えうるリスクとしては、以下の2つが挙げられます。

・キャッシュフローの悪化を招くリスクがある

養老保険は、一般的な定期保険や終身保険に比べて、保険料が割高になる傾向があります。

一度加入すると途中でやめることが難しいので、将来的に保険料を支払い続けることができるかどうかをよく見極める必要があります。

・福利厚生の規定を整備しておく必要がある

養老保険は、従業員の福利厚生の充実に有用だが、福利厚生プランを活用するのであれば、福利厚生目的であることを明示し、規定を整備しておく必要があります。

こうすることで死亡時の遺族とのトラブルを防いだり、従業員への不満を減らしたりすることができます。

がん保険の特徴

意外かもしれませんが、がんのリスクに備えるがん保険も従業員の退職金を準備するのに有用です。

終身保険であれば、貯蓄性も高く、従業員ががんにかかった時に備えることもできます。

がん保険のメリット

がん保険のメリットとしては、以下の2つが挙げられます。

・従業員のがんに備えることができる

日本人が一生のうちにがんにかかる確率は2人に1人とかなり高く、従業員ががんにかかる可能性も少なくないといえます。

そういった事態においても手厚い保障を受けることが可能です。

・名義変更で退職金代わりになる

がん保険は、従業員の退職後に、名義変更をすることで退職金代わりに使用できます。

支払期間を定年のタイミングに設定すれば、その後個人で保険料を支払う必要がなく、解約しなければがんになった時のリスクに備えることも可能です。

がん保険のリスク

がん保険の考えうるリスクとしては、以下の2つが挙げられます。

・以前より節税効果は期待できなくなった

以前は終身のがん保険の掛金が全額損金に算入できたものの、2014年の法改正によって、損金に算入できるのは2分の1になりました。

ほかの保険に比べると、うまみが少なくなったと言えます。

・退職金の準備という側面では魅力が少ない

がん保険の目的は、あくまでがんにかかるリスクに備えることにあります。

貯蓄性のある保険ではあるものの、退職金を準備するという側面においては、長期平準定期保険や逓増定期保険などと比べると、解約返戻金も少なく、うまみは少ないでしょう。

4.まとめ|自社に合った保険を見極めて退職金準備を

従業員の定着率を高めるために、退職金は重要な要素の一つと言えます。

その退職金を準備するために、保険を活用するのが有用です。節税対策もできるうえ、万が一の保障もカバーできる点で優れています。

保険には大きく4つの種類があるので、今回紹介したそれぞれのメリットとデメリットを踏まえたうえで、自身の会社に最適な手段を選択するようにしましょう。